しばらくぶりの『ギヴァー』と関連ある本です。それは、梨木香歩著の『ほんとうのリーダーのみつけかた』。以下、私が関連があると思ったところを、本からピックアップして(左の数字は、本のページ数)紹介します。
31 あなたの、ほんとうのリーダーは、その人(自分自身)なんです。
それは・・・「自分のなかの目」、でもあります。同じひとです。・・・自分のなかの、埋もれているリーダーを掘り起こす・・・チーム・自分・・・これは、個人、ということです。
32 そして、群れというのは本来、そういう個人が一人ひとりの考えで集まってできるものであるべきだと思っています・・・さまざまな群れがありますが、それに所属する前に、個人として存在すること。盲目的に相手に自分を明け渡さず、考えることができる個人。
じゃあ、どうやったら個人でいつづけられるか。自分のなかに自分のリーダーを掘り起こすって、どうやって?
この後、「批判的精神」の大切さを説明してくれていますが、私は、「批判」を使った(と訳した)瞬間に違ったイメージをもたれてしまうと思っているので、使わなくなっています。英語では、critical thinkingです。直訳すると、確かに批判的思考ないし批判精神なのですが、それはあくまでも「直訳」であって、その言葉の本質部分をついていません。この言葉と40年近く格闘してきた経験★からいうと、現時点でベストの訳は「大切なものを見極める力と、その反対の大切でないものを排除する力」です。
37 そのためには、まずは自分自身で考える、ということが大切です。
自分で考えるためには、そのための材料が必要です。その材料となる情報をまず、摂取しなければなりません。でも、その情報もすべて鵜呑みにするのではなく、自分で真剣に向きって、おかしいと思ったら、これはおかしいんじゃないか、と、疑問に思わなければならない、そういう時代になりました。つまり、その情報ができたところの事情を想像する力もつけなければならない。
この後、マスコミも大切な情報を伝えてくれるわけではない事例を紹介しています。
44 「え? そうかな?」と思ったことを大切にする。それが、あなたらしさを保っていく。
56 『君たちはどう生きるか』が広く受け入れられている理由は、大まかに言って二つ。一つは客観視と、それに伴う主体性の「揺らがなさ」にまつわること。
ここでは、「揺らがなさ」がカッコになっていますが、より大切なのは主体性(agency)★★のほうです。それがないというか、育む努力がなされていないところでは、「揺らぎ」自体も存在しませんから。
この後、石川さつき著の『村八分の記』について考察しています。日本は、いまだに村社会のままではないか、と。
91 石川さんの、民主主義を渇望するが故の行動は、図らずも、この国は全体として、本当に民主主義を欲しているか、そもそもこの国の土壌にそれは根付くのかという、それこそ根深い問題をも浮き彫りにした。
94 日常のなかで、ふとそれまで一般には疑問視されてこなかったことに「引っ掛かる」ことがある。(グレタ・トゥーンベリさんや石川さつきさんの行動が紹介された後で)たいていの人間は・・・疑問をもったことすら忘れてしまう。けれど、彼女たちは言いくるめられない・・・そういう引っ掛かる力が、社会全体を牽引していくのだろう。
以上メモしたことのほとんどは、『ギヴァー』のなかでジョナスが考えた結果、アクションとして起こしたことと同じというように、私には取れたので紹介しました。
★1885年頃に最初に私がcritical thinkingに出会ったのは、カナダのグローバル教育を実践している先生たちが最も大切なことをcritical thinkingだと答えているアンケート結果を見たからです。日本では、そんなふうに答えられる教育関係者はほぼいないと思い、実際に調査をしてみたところ、その通りの結果が出ました(ちなみに、日本での断然トップは「思いやり」です。38年後の今同じ調査をしても、ほぼ同じような結果が両国で出るのではないかと思います!)
次の出会いは、critical
friendをテーマにした丸3日間の研修会に参加しました。そのやり方は、『学びの中心はやっぱり生徒だ!』の240~241ページで紹介されています。あるいは、https://projectbetterschool.blogspot.com/2012/08/blog-post_19.html で読めます。次は、『「考える力」はこうしてつける』がcritical friendの存在で書かれた本ということでした!
知ってから、最初の20年ぐらいはcritical thinkingは「批判的だが温かく」とか「批判的だが、建設的に」と、そしてcritical friendは「批判的な友だち」と訳していました。
しかし、2006年ぐらいに、国語の作文指導のあり方を改善しようという「作家の時間」のなかで「批判的な友だち」を子どもたちにやってもらおうとしたのですが、誰も批判的になりたくないので、せっかくいい方法なのに使われませんでした。
そこで、もがいた末にcriticalには「重要な、大切な」という意味もあることを思いだし、「大切な友だち」に名称を代えたところ、嬉々としてやり出してくれました。誰も、ファンレターをもらって、それほどうれしいことはありませんから。(でも、批判するのは嫌いです! 「大切な友だち」のなかでは批判はしません! 質問の形に変えて投げかけますが。)
そして、ここ10年ぐらいは「大切なものを選び取る力/大切でないものを排除する力」を使っています。これなら、ほぼ40年前にカナダの先生たちがダントツで最も大切にしたいと言っていたのが、分かる気がしませんか?
なお、クリティカルな思考は、「21世紀型スキルの4C」の一つとだいぶ前から言われていますが、ほかの3つ(コミュニケーション、コラボレーション=協働する力、クリエイティビティー=創造力)はそれなりに受け入れられても、クリティカルな思考はほとんど全く認知されていない状況が続いています。「批判的思考力」では、子どもたちが証明しているように、だれも批判はしたくないので受け入れられないでしょう。また、具体的にそれを磨くために練習する方法も、ほとんど紹介されないままが続いています。
★★『言葉を選ぶ、授業が変わる!』および『オープニングマインド』のなかで紹介されている、identity, agency, social imagination, 「それを考えるほかのほうほうはありますか?」「一緒に考え、力を合わせて取り組む」「世界を選択する」などの言葉や章立てで面白い内容が書かれている2冊の本です!