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2013年11月1日金曜日

『ギヴァー』と関連のある本 99


協力者の矢内一恵さんが、『ギヴァー』に関連のある本を教えてくれ、かつ紹介文まで書いてくれました。(以下に、そのまま掲載します。)

Baby”(Patricia MacLachlan著、邦訳『潮風のおくりもの』)という作品があります。The Giver”と対極をなす本ではないかと感じています。しかし、リンクするところが非常に多いとも感じています。この2冊の本は、プロットはまったく違いますが、どちらの物語にも登場するいくつかのキーワードでお互いに引かれあっているように思います。これらのキーワードが、物語の進行を加速させる上で、重要な役割を担っています。

Baby”はそれだけを読めば、最愛の人を失ったときに感じる悲しみ、虚脱感、そしてその悲しみや孤独とどのように向き合い、乗り越えていくのか、というのが大きなテーマになっています。語られる情景は季節の移り変わりの中のゆったりとした、何気ない日常生活ですが、細やかで、やさしい眼差しに溢れ、まるで手で織物を編んでいくような暖かさがあります。
一方、The Giver”は無機質な光景の中に画一化され管理された日常生活が、感情の起伏を許されることなく描写されていき、読み進めるうちにその違和感は読者にある種の恐怖感と寒々しさを与えていきます。

このように、設定上は対角線上の両極端にありながら、磁石のようにお互いを引きつける働きとなるものが、memory<記憶>でしょう。そのmemoryを軸に、emotions<感情>, words<言葉>,という概念が絡み合い、2つの物語をさらに強く共鳴させているように感じます。
The Giver”の登場人物たちは<記憶>を持たないゆえに、喜怒哀楽を感じることはなく、死を死とも受け取れない、いや受け取る必要のない世界で暮らしています。Baby”の中に登場するbabyは名前をつけられることもなく1日で亡くなってしまいますが、その死の<記憶>は家族に大きな苦しみ、孤独、怒りという感情を残し、それは日を追うごとに大きくなっていきます。

ここで考えさせられるのが、人にとって、人類にとって<記憶>を持つことの意味は何か。The Giver”ではThe Giverその人がwisdom<知恵>だという答えを提示し、<記憶を受け取る人>の必要性を述べていますが、心揺さぶられる苦しみ、痛み、悲しみ、哀しみ、怒り、楽しみ、悦び、などあらゆる感情を体験することなしに、果たして<知恵>が適切に<知恵>として働くことはできるのだろうか、と私は疑問に感じます。
Babyの登場人物が担う<記憶>は、<喜怒哀楽の感情の体験>を通して、「人生を前進させる」という形で生かされ、最後の場面でその効果を発揮していると思います。
<記憶>は「人生」に彩りを与える重要な要素なのです。それが、人類の歴史としてなのか、一人の人生としてなのかは関係なく、常に<感情>とセットでなければならないのだろうと、考えさせてくれます。

この2つの作品のもう一つの共通のキーワードとしてwords<言葉>について少し。言葉には力、あるいは意味が存在するのか。The Giver”の登場人物たちは、言葉の正確な使用法にこだわっていますが、そこに本当の「意味」を見出しているとは思えません。むしろ、衝動の根源となるものを圧殺するための使用法のようにみえます。
Baby”には「Dirge without Music(音楽のない葬送曲)」という詩が作品内に登場します。この詩の登場で、主人公の少女、およびその家族たちが心のうちに閉じ込めていた衝動を一気に開放させていきます。

主に、memory, emotions, wordsを極めて簡単に対比させて考えてみましたが、ほかにも、あらゆる場面において対比させて読むことができ、非常に考えさせられる要素が満載です。現代の私たちに、「人が人であるために…」という課題を、やさしいくあたたかい眼差しで投げかけるbaby、チクリと冷徹な思考で投げかけるThe Giver
<記憶>は<喜怒哀楽の感情の体験>がなければ生まれることはできず、<感情>というスパイスが効かなければ、<知恵>には到達できない。その<知恵>を人類の「叡智」とできるかは、まさしく現代の私たちが下す選択にかかってくるのだろうと思います。感情を経験することがなくとも得られる「知識」との違いが浮き彫りにされる瞬間だろうとも思います。

2作品の個々の世界観を味わい、またリンクする部分で読者の想像的思索を深めるのに、ぜひとも同時に読んで楽しんでもらいたいです。どちらも小学高学年用に書かれた作品ですので、できることなら原書で、そして若い人たちに読んでほしいと、心から願います。

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