私が『ギヴァー』を知ったのは、2007年3月2日に参加した研修会だったのですが、その同じ時に知ったのが『てん』(ピーター・レイノルズ作、谷川俊太郎訳)でした。
両方とはもう3年以上の親密なお付き合いをしています。しかし、両者の関連にはここ数日のブログの書き込みをするまで気がついていませんでした。
「自由」「自立」あたりと共鳴してきたのです。
私も、最初に『てん』を読んだ時は、この絵本に登場する先生の「すばらしい投げかけ」「ユーモアのセンス(嵐の中の北極熊ね!)」「演技(金色の額縁に飾る)」に痛く感心しました。(「感動した」と言ったほうが正しいかもしれません。)
その後10回ぐらい、研修等で読み聞かせをしても下の図には至りませんでした。15回ぐらい読んだ時、下の図に気がつきました。(おそらく、1回で下の図に気づいてしまう方もいるかもしれませんが、いい本 ~それがたとえ絵本であっても~ は、繰り返し読むことに価値があると思います。)
上の図を説明します。
やはり、教師や親からのいい問いかけ/投げかけ、それも「クリティカルな投げかけ」が決定的に大切です。絵本の主人公のワシテのように子どもによっては、それがないと動き出せない子も少なくないからです。(大人対象の研修や仕事でも、同じだと思います。)“クリティカル(critical)”は、“批判的な”という意味で知られていますが、同時に“とても重要な”“大切な”という意味もあります。日本では「クリティカル・シンキング(critical thinking)」を「批判的思考力」と一般的に訳していますが、それも含めて、「大切なものを選び抜く力」だと私は思っています。
その「クリティカルな投げかけ」が先生から発せられたことによって、ワシテにはビジョンができました。点を描くという。
その際に大切なのが、イニシアティブおよびオウナーシップとコミットメントです。全部カタカナですみません。ある意味では、全部似ています。イニシアティブ(initiative)は、自分の選択で主体的に動き出す、という意味です。オウナーシップ(ownership)は、自分のものと思えることです。言われたからするのではなく、主体的にするということです。コミットメント(commitment)は、自分が主体的に決めて、心底打ち込むという意味です。人から与えられたものは、ほどほどのレベルでしかやれませんが。
ビジョンと、これら3つがそろったので、ワシテにはインスピーレーション(inspiration)が止め処もなくわいてきました。インスピレーションは通常「ひらめき」と訳されますが、語源は「息を吹き込む」「命を吹き込む」という意味です(『エンパワーメントの鍵』)。ワシテは、まさにそんな状態で、いろんな点を描きました。点を描かないで点を描くことまでしてしまいました。
それ自体が、ワシテのエネルギーを引き出していたと思います。まさに、元気になっていたのです。
そして、展覧会で発表するチャンスをもらって評価を得ると、それらを次の子に提供する立場になっていたのです。今度は、自分が「クリティカルな投げかけ」をし、「ビジョン」(=線を描いていく)を提供する側です。
こうして、どんどんエンパワーメントのサイクルが回って/増えていったらすごいことだと思いませんか? ワシテのような変化の担い手が、学校や社会にドンドン増えるということです。
私は、こうした多数のサイクルを作り出す要のポジションに教師や校長をはじめリーダー的なポジションの人たちはいると思います。ぜひ、「ビジョン」「インスピレーション」「エネルギー」を持ってもらえるような「クリティカルな投げかけ」をいろいろな人たちにしていっていただきたいと思います。
もちろん、こんな解釈は、作者のピーター・レイノルズさんも、訳者の谷川俊太郎さんも、ありがた迷惑かもしれません。しかし、これが現時点での私のこの本の解釈です。あと10回ぐらい読むと、また変わるかもしれません。(そうあってほしいと思っています。)
ジョナスの世界では、この「クリティカルな投げかけ」ができる人が決定的に少ないというか、システムとして排除している気がしましたし、たまたまギヴァーとの出会いと過去のたくさんの記憶という形でジョナスだけはそれが提供された気がします。
私たちの世界も、似たような状況になってしまっては悲しいです。
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