ちょっと経路の違った本を読んでいます。
『数学する遺伝子』(キース・デブリン著)です。
この本の主な主張は、脳の機能はパターン認識ですが、数学は「パターンの科学」なので、人は誰でも数学する遺伝子を持ち合わせているというものです。
では、なぜ嫌いな人やできない人がいるのでしょうか?
マラソンと同じだそうです。
マラソンも、40年より前は長距離選手の中のごく一部が走るもんだと思われていました。普通の市民が走れるものとはまったく思われていませんでした。それが健康ブームで、今では誰でもやる気にさえなれば走れてしまうのです。数学もまったく同じだというのです。ですから、ぜひ「やる気になりましょう!」と著者は提唱しています。
私がこの本で一番面白いと思ったのは、「オフライン思考」ということでした。
それは、ひとことで言うと「内的に生じたシンボルの世界についての思考」(294ページ)のことです。これだけでは、まだわかりにくいので、さらに説明すると「過去の出来事をくわしくかえりみたり、未来の行動をずっと前から計画して、様々な選択肢について考えたりできる」(295ページ)能力です。そして、オフライン思考ができる動物は人間のほかにはいない(295ページ)そうです。
オフライン思考に対して、オンライン思考の開始と維持に必要なのは、物理的環境というか刺激です。(301ページ)こちらは、基本的に「動物的」思考というか反応です。もちろん、人間も依然としてもち続けています。危ない状況などに遭遇した時は、ほぼ自動的に作動します。
脳は、オフライン思考が可能になる前に、きわめて多様な活性化のパターン(すなわち、いくつかの組み合わせ、意味のある活性化の連鎖を開始し、維持するのに十分なだけのパターン)を生み出す能力を獲得していなくてはならなかった(302ページ)、と著者はビッカートンという人の主張を紹介してくれています。
それらのパターンを蓄えることができたおかげで、オフライン思考が可能となり、それによって「人間が ~ そして人間だけが ~ できるようになったことはたくさんある。私たちは、遠く離れているものも含めて、さまざまなものや場所、状況や出来事について語り合うことができる。過去や未来の出来事について、考えられる。時間の経過についても考えられる。架空の物語を作ることもできる。様々な道具や、機能的な人工物や、純粋に象徴的な人工物も作れる。複雑な未来の行動プランを立ててそれにしたがうこともできる...そして、論理的推論によって世界に対する理解を深め、行動の意思決定をすることもできる。」(311ページ) ← 『ギヴァー』の中で、これらができているのはほとんどギヴァーとジョナスだけと思えてしまいます。私たちはせっかく身につけているこれらの能力をしっかり使わなくては、とも思いました。特に、3月11日以降のような状況では。
デブリンは、これからの数学・科学教育ということでは(340~343ページ)、
① 数学や科学がどんなものであり、暮らしの中での役割を明確にすること と
② 論理的思考/科学的に考える習性を身につけること
に集中すべきであると提言しています。従来の忘れてしまうことが約束されているようなスキルの練習に無駄な時間を割くべきではないとしています。
論理的思考/科学的に考える習性はどうやって身につくかというと、「数学や科学をすること」であり、それにはスポーツや演劇などをすることを参考にすべきだとしています。★それには、上に書いたように必然性というか「やる気」になる決意のようなものが前提として必要になります。それなしで厳しい練習をするだけだと、あまり生産的ではないスキルのドリルになってしまいますから。
★ そういえば、まさにこの視点で開発されたのが『ライティング・ワークショップ』と『リーディング・ワークショップ』でした。
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