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2011年6月4日土曜日

ピアジェの『教育の未来』

   紹介する(関連する)本の内容がガラッと変わります。

 ジャン・ピアジェは「心理学」では有名ですが、日本ではあまり教育の分野では知られていないと思います。でも、欧米ではここ20~30年行動主義に変わる教育の主流になりつつある構成主義の元祖としてレフ・ヴィゴツキーと並んで脚光を浴び続けています。この本はタイトルのとおり、彼の教育への提言をまとめたものです。今でも(教育には永遠に)必要なことをたくさん述べてくれています。
  わが国においてはこれらの原則的なことを、ちゃんとやっていないんだから、よく学べない状態が続くのも当然、と思わせてくれます。ローリーさんも『ギヴァー』の中では伝統的な学校や教育観で描いていたような気がします。従って、ギヴァーには「学校での教育に期待できるものはあまりない」ようなことを言わせていたようにも記憶しています。 (左側の数字は、例によってページ数です。)


●自発的活動や探究の大切さ

13 心しておかねばならないことがあります。それは、ここでも求められている改革とは、単に数学・物理学・化学・生物といった自然科学教育の個々の分野の専門化した教育法を求めることではない、ということです。むしろそれは...自発的活動を重んずる教育法とはどんなものか、といった問題を考え直してみるところにあります。また、子どもや青年の発達に関して得られた心理学的知識を教育に適用する問題など、もっと広範な多くの問題を問うことなのだ、ということです。そしてこのような広い意味を持った問題を、現在まだ世の中を風靡している学問の細分化の傾向に抗して、あらゆる水準で問い直さなければならないということです。

14 そこでまず、心理学上のある基本的事実に注目していただきたいと思います。というのも、一般に認められていることとはかなり矛盾するある重要な事実があるので、そこから出発するのがよいと思われるからです。生徒一人ひとりの間には能力の差があって、その差は年齢とともに開いてゆくということは、一般には自明のことと考えられています。

15 ところが、一般に信じられているような能力差のあることを証明する組織的データは、わずかな数の女児の場合を除き、得ることができませんでした。そして、これらの女児に差が認められたのも、実は知能が劣っていたためではなく、常にこれらの問題に興味がなかったからにすぎませんでした。知能水準が平均以上の生徒はすべて、どの年齢においても、同等の理解力と積極的な取り組みの態度を見せたからです。

 私たちの仮説によれば、知能水準が同等であるのにある生徒は他の生徒に比べて数学や物理に優れているという場合、この生徒が他の生徒と違ってもっているいわゆる適正能力とは、与えられた教育の形式に適応していくことができる能力なのだ、ということです。従って、他の科目の成績はよいがこれらの科目には弱いという生徒も、別の筋道を通って学んでゆけば、理解できないと見えたこれらの問題を充分にこなすことができるはずであります。

17 第一の条件は、当然のことながら、自発的活動を重んずる教育法を取ることであります。幼児や少年の自発的な探究を本筋とし、習得すべき真理をただ単に伝達することを止め、生徒が自分自身ですべての真理を発見したり再構成したりできるようにすることであります。ここでの誤解は、この種の試みにおいては教師の役割はゼロになってしまうというもの、またこの方法を着実に行うためには生徒をまったく自由な立場におき、好きなように勉強させ好きなように遊ばせるようにしなければならない、というものです。(両方とも間違いです。教師はしっかり環境・雰囲気を整備しなければなりませんし、反対の例を挙げたり、様々な問いかけをして子どもたちに考えさせたり、結論を急がぬように自制させたりする役割があります。また、基礎心理学的な知識と実践者になることも求められています。)

21 実のところ、教師が生徒の前でやって見せるだけの実験は、本当の実験とはいえません。また、たとえ生徒たちが自分の手で行ったにしても、すでに定められた方法に従って、言われたとおりにやるのでは、本当の実験ではありません。

 自発的活動を重んずる教育法の基本原理は、科学の発達の歴史をたどる中で考え出されたものであります。それを一言でいえば、次のように表すことができるでしょう。「理解するということは、発見し発明すること、いいかえれば、再発見して再構成することである。」将来、単に教え込まれたことを反復するだけの人間でなく、ものを作りだしたり創造したりすることのできる人間をつくるためには、まずこのような条件を必然的条件として引き受けることが必要です。

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